発つ狸、跡を濁さず

推しメンを「推し始めたきっかけ」、覚えている人はどれくらいいるのだろうか。

私が長濱ねるというアイドルを推し始めたきっかけは、全く覚えていない。紅白のサイマジョを見て欅坂に興味を持ち、そこから過去の番組などをたくさん見返し、気付いたら推しメンが長濱ねるになっていた。理由は顔なのか、方言なのか、声なのか。いや、少なくとも長濱ねるを推すにあたって、そんな簡単な理由でなかったことは間違いない。彼女の特別な存在感が、私にそう思わせたんだろうと今では思う。

私がライブに行くまで想像していた長濱ねるのイメージは、「グループの中心」というものだった。加入経緯はもちろん知っていたが、今ではトップクラスの人気メンバーだし。ということで勝手にこのような想像をしていた。しかし、けやき坂全国Zeppツアーを見て、推しメンは「中心に立って周囲を引っ張っている」という私のイメージとは全く違い、「全員の背中を見守り、押す存在である」ということに気付いた。曲でこそセンターとして活躍するも、MCなどでは端っこで、他のメンバーが際立つように見守る姿を見せる。私はそんな推しメンの姿に、非常に惹かれた。

私が「けやき坂の長濱ねるが好き」というのも、ここからである。もちろん欅坂で裏エースのような立場で活躍する推しメンも好きである。けやき坂では周りのメンバーを温かく見守り、背中を押してあげる「太陽」のような存在になり、欅坂では平手を筆頭とした独特の世界観の中で、唯一無二の存在感として独特な色を放つ「月」のような存在になる。こんな推しメンの対比が本当に好きだった。だから、兼任解除になって長濱ねるの「太陽」としての一面が見れなくなってしまったのが、一番寂しかった。ただ、その太陽はキャプテンの佐々木久美や2期生の宮田愛萌といった存在が引き継ぎ、その大きくなった太陽が「日向」を生み出した。改めて、長濱ねるという存在に大きく感謝したい。

 

私が初めて推しメンと接触できたのは、写真集のお渡し会。そもそも握手会に行く回数も少なく、券も当たらなかった私にとってこれは数少ない接触の機会だった。正直何も覚えていない。ずっと画面でしか見てこなかった子が目の前にいるというパニックで頭がいっぱいだった。でもめちゃくちゃ可愛かったのはしっかりと覚えている。良き思い出。最後に接触できたのは、先々週の握手会。「アイドルになってくれてありがとう」「推させてくれてありがとう」という感謝しか出てこなかった。これが僕にとって、せいいっぱいの感謝だった。ただ、レーンで様々な人がそれぞれの感謝を伝えている姿を見て、これだけの人に感謝される推しメンの存在が改めて好きになった。

2018全国ツアー横浜公演の光景は、今でも忘れないと思う。チケットトレードでなぜか手に入れた、アリーナ最前ブロック最前列、花道脇という神席。最前列で、目の前で見た「音楽室に片想い」。あの可愛さはたぶん一生忘れないと思う。そしてライブと言えば、やっぱり「気球と自転車」だろう。2017年全国ツアー幕張千秋楽、最後方席でただ液晶を眺めていた私がその日唯一目にすることができたのが、この気球だった。欅共和国2018、楽しみにしていた「100年待てば」と共に推しメンが自転車に風船括り付けて登場したシーンは忘れない。心からホッコリした。どちらも「長濱ねるだからできる演出」だったのかなと、今では思う。

 

今日7月30日、長濱ねるは欅坂を卒業した。発表から4か月、結局本当に卒業してしまうという実感を持てぬまま卒業イベントに突入してしまった。ここまで実感が持てなかったのは、やはり「なんで辞めてしまうんだろう」という考えが脳内にこびりついていたからだ。ドラマにも出た。欅坂もまだまだこれから。何故このタイミングで、アイドルが何よりも天職の推しメンが卒業してしまうのか。疑問でしかなかった。だから卒業という二文字も、にわかに信じがたく脳内で揺れているだけだった。ただ、今日のスピーチを聞いてようやく卒業に納得がいき、実感もした。

「アイドルを続ける」ということは我々が思っているほど甘くもなく、楽ではない。人前に立ち続け、様々なことに気を使って過ごさなければならない。これが、推しメンの言う「放電状態」だったのだろう。私は「たった4年なのになぜ」と思った。しかしアイドルにとって、それも途中加入や兼任などを経た推しメンの4年間は決して「たった」という言葉で表せるものではなく、「長すぎる4年間」だったのだろうと。そう思うと、紆余曲折ありながらもアイドルを続けてくれた推しメンには改めて感謝しかない。4年間、意味のある道を進んできた推しメン。私たちはその道を平坦だと思っていても、本人にとってそれは前途多難な茨道だったかもしれない。そんな道中でもずっと私たちに笑顔を振りまいてくれて、幸せにしてくれて本当にありがとうと、そういった気持ちでいっぱいになる。昨日まで複雑な気持ちで「アイドル・長濱ねる」を送り出そうとしていた私は、推しメンのアイドルとして"完璧な最後"を見届けることができたんだなと、今では強く思っている。

 

もう「卒業しないで」なんて思わない。今まで本当にありがとう。ゆっくりと充電してください。良い春を迎えられますように。

またいつか会える時を、100年待ってます。